教授 鳥居塚崇
私の専門は、制作の前段階のコンセプトが中心です。デザイナーは通常、あらかじめ「使い手はこうするだろう」と考えてから創作に入りますが、人は必ずしも想定どおりに行動するとは限りません。悪いと分かっているのに間違った行動を取ることすらあります。それらを理解したうえで、安全で安心なシステムをデザインしなければなりません。
創生デザイン学科では、1年生に「ものづくりの心構え」を教えています。作り手目線ではなく使い手を考えたデザインが重要だと、事例を用いて説明します。例えば、車椅子で楽に家に出入りできるように、玄関を出たところにスロープを付けるとしましょう。扉の取っ手が左側にあって右に開くのに、スロープを扉の右側に設置しては、外から帰ってきて車椅子で玄関まで来ても扉を開くのに一苦労です。使い手の立場を考える意識を、早い段階で身に付けてもらうのが、授業の目的です。
優れたデザイナーになるには、さらに「使いやすさの先」まで見通せるようになってほしい。例えば、池に子どもが落ちないように柵を張り巡らせることがあります。危険の防止になる半面、子どもが「池は危ない」と知らないまま育つ可能性もあります。人間の行動を明らかにするには、いろいろな場面・状況における人間の認知や思考の過程、行動を促すような背後要因、環境の変化に人間がどう感じて対応するか、などを明らかにしなければなりません。「危ないから柵を取り付ける」と単純に思考するだけでなく、さまざまな要因を考えたうえでデザインできるような人材を育てたいと思います。